雪炎を読んで。馳星周氏の著作

前書き

馳星周氏の著作、「雪炎」を読んだ。

本を読み終えた後はいつも、その本から得た気づきや学んだことなど、感想を書くようにしている。なぜなら自分から情報発信をしないと、自分の本当の理解にまで落とし込めないからだ。

本ブログにて小説を読んだ後の情報発信は初めてになるのだけれど、「雪炎」を読み終えた後の感想を、本の魅力が伝わるように書いていきたいと思う。

 

と、ここでいきなり話が逸れるのだけれど、僕が読書をするようになったのは馳星周という作家のおかげだと今でも思っている。

中学生のころから、僕はとてつもなく国語という授業が苦手になった。原因はわからないのだけれど、僕の脳はからっきし理系よりだったみたいだ。

高校のころはひどかった。現代文のテストで10点台をとったことまである。物語を読んでどのように感じるかはその人次第であると思うのに、なぜそこに問いが置かれ、決まった答えを求められるのかが自分にはわからなかった。

高校を卒業して一人暮らしをしているときに、馳星周氏の「不夜城」を読んだ。なぜこの本を手に取ったかというと、金城武が主演で映画化されたからだ。

映画はいまいちだったけれど、当時ファンだった金城武はかっこよかったし、裏社会で生きていく人間の苦悩や、やくざな世界が新鮮で物語に引き込まれた。

そして原作の小説を手に取って読み始めたら、次のページが待ち遠しい感覚になるほど没頭して読んでしまった。

日本の教育のせいにするつもりはないが、決まった答えを求めさせる教育から、僕は本を自由に読むことができていなかったと思う。

読んでどのように感じるかはその人次第であって、決まった答えは無い。物語は誰が読んでも一緒であるけれど、感じ方は人それぞれでよい。登場人物の行動は誰が読んでも一緒だけれど、その登場人物のとらえ方は人それぞれ違う。そういう風に、自分がどのように感じるか楽しみにしながら本を読むことが、不夜城でできるようになったと思っている。

 

対照的な3人の男

本書の主人公は和泉という中年男だ。北海道で細々と農業を営んでいる。

元公安警察官であり、警察という組織に馴染めず辞職し、隠遁と呼んでもいいほどの地味な生活を送っている。

そんな和泉の同級生の小島という弁護士が、反原発を掲げて選挙に立候補する。小島から和泉に声がかかり、物語は始まっていく。

小島を支援する人間の一人に、同じ同級生である武田という男も登場する。つまり同級生3人で選挙を戦うことになる。

 

この3人が非常に対照的で面白かった。

 

和泉は一言でいえば「ひねくれ者」。人からよく言われても、悪くとらえてしまうような男だ。しかし根っからの悪人ではなく、小島の反原発の思想を少なからず肯定しているし、責任感もある。決して見て見ぬふりはできない質だ。ここは元公安警察官であることも関係しているのかもしれない。

一方選挙に立候補する小島は、正義感のあるまっすぐな男。そして威風堂々としており、人を引き寄せる魅力を持った男だ。

舞台となる北海道では保守派が台頭しており、反原発の思想を持った人間は隅に追いやられてしまうような風潮さえある。そこに反原発の理想を掲げて立候補するわけだ。これだけで小島の勇気と信念の強さが伝わってくるが、さらに小島は、この選挙が負け戦であることを初めから理解している。でもたとえ負けるのだとしても、反原発の思想を選挙を通して伝えることで、世の中を変えていこうと思っているのだ。

そして最後の一人武田という人物は、一番目立たない保守的な人間である。最も一般人に近い存在といったところだろうか。

自分が持っている会社を立て直すために選挙に力を貸す。つまり暮らしのために行動をしているということだ。そして武田は力がある方になびいていくところもある。悪い言い方をすれば、人に媚を売って生きていくタイプの人間だ。

 

この3人の同級生が織りなす物語が面白い。3人の個性は、文字でしかないセリフにもしっかりと表れており、彼らの会話は読んでいて本当に面白かった。

これだけ個性が違うのでぶつかり合うこともあるのだが、結局はどちらかが歩み寄り会話はヒートアップせずに収束していく。



印象的なやくざ、古沢

この物語には古沢というやくざが登場する。馳星周氏の小説には毎度と言っていいほどやくざや極道が登場するが、今までの馳星周の小説をひっくるめて、この古沢というやくざは一番良心的なやくざだと思う。

保守派のやくざであるのだが、選挙絡みで起きたある事件を契機に、和泉と一緒にコンビを組み捜索をすることになる。

古沢は、選挙で敵対はしているが、どこかどっちつかずの和泉のことを気に入り、飯をおごったりする。古沢の言葉遣いは常にやくざであるが、どこか和泉のことを察している印象がとても心に残った。

良心的と表現はしたが、古沢はやくざとしてやることはやるやくざだ。自陣に踏み込んできたやつらにはきっちりと落とし前を付けさせる。ただ、古沢は大それたことはしない。自分の領地は守りながら相手陣地に進んで踏み込もうともしない、どこか中立的なやくざだと感じた。

また、古沢には娘がいる。その娘と訳あって別居しているのだが、和泉のちょっとした後押しにより一緒に会って食事をするようになる。その際に描かれる不器用な古沢がとても印象的だった。

そして、「何を話していいかわからない」と言う古沢に和泉が的確にアドバイスをする。この2人は敵対同士でありながらも助け合うところがあり、お互いに持っていないところを補う相棒のような関係にも見て取れ、また不器用な男同士のやり取りも読んでいて面白かった。

主人公の和泉は、この古沢という男を通して描かれ、また正義感のあふれる小島を通して描かれてもいる。両陣営の目線で和泉という主人公が描かれる。ひねくれてはいるが魅力的なキャラクターだと感じさせてくれた。

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感想(0件)

反原発について

本書はフィクションであるが、3.11(東日本大震災)で発生した、原子力発電事故に触れていることは間違いない。そして明らかに、原子力発電に対して警鐘を鳴らしている小説である。地震大国である日本という国において、原子力発電は手に負えない存在であると、物語を通して警告をしている。

本書のあとがきに書いてあったのだが、電源三法というものがあり、簡単に言うと原子力発電所の建設に協力した自治体には、巨額の交付金が付与されるという。

悪いレッテル貼るわけではないが、原子力発電所の建造によって、巨額の金が動いていることは事実だ。

また、馳星周氏の小説では多々あるが、警察という組織の腐敗が、これでもかといった勢いで描かれている。実際はどうであるのかわからないが、思いっきり皮肉っていることは間違いない。自治体に巨額の資金が動き、警察は見て見ぬふりをする。国も原発の正当性を説明できていない。

フィクションであるが雪炎という小説を読んで、日本の迷走を示唆していると自分は感じた。僕自身を含めて、”見て見ぬふり”という行動を痛烈に揶揄していると感じた。

後書き

いろいろ書いてしまったが、この「雪炎」という小説を僕は読んで、率直に面白かった。

小説の背景には暗いものがあるかもしれないが、フィクションとして楽しむのもその人の自由だ。また一方、3.11のことを振り返って勉強してみたりするのもその人の自由である。

本記事を通して「雪炎」を手に取っていただけたなら、本記事を書いた僕としては幸いなことである。




ABOUTこの記事をかいた人

本業はSEですが、本を読むことが大好きです。本から得た気づきや学びをアウトプットしています。本ブログが本を手に取っていただけるきっかけとなれば幸いです。